2003年6月29日
第44回 宝塚記念
単勝式馬券。1着になる馬だけを当てる勝馬投票券。
現在、JRA日本中央競馬会の主催する競馬の中で発売されている7種類の馬券のうち、最も単純な馬券だ。この馬券の配当は各馬の人気のバロメーターとなり、多く買われた馬の配当ほど低くなる。テレビ・ラジオ放送の中などでもこの単勝の払い戻し配当順に表示して、その支持を伝えている事が多い。
Photo Data:(C)KRA
第44回宝塚記念の単勝払い戻し倍率に、開催前日の土曜日、異変が起きた。
前評判では、前年東京優駿を2着し、天皇賞(秋)、有馬記念を勝ったシンボリクリスエスが約半年のブランクをものともせずに勝利するとみられ、1番人気の支持と思われていた。2番手にはこの年の東京優駿、皐月賞と勝利したネオユニヴァース。53キロという斤量で出走となり、古馬勢とも互角か、それ以上に渡り合えるだろう。3番手にはG1・6勝アグネスデジタルが続くとみられていた。
しかし、6月28日(土)午前10時55分頃、この馬達ではなく、ヒシミラクルが1番人気に支持されたのだ。その倍率はなんと1.7倍。明らかに尋常では無いこの倍率に、インターネットの掲示板には様々な憶測や情報が飛び交い、人々の目は宝塚記念・ヒシミラクル、そしてこの購入者の結末へと注がれた。
「ヒシミラクル」
母・シュンサクヨシコ(母父シェイディハイツ)、父・サッカーボーイという血統の芦毛の牡馬は、当歳・1歳での庭先取引では売買されず、北海道・静内のトレーニングセールに出された。
血統のみならず、公開調教も重視されるトレーニングセール。1200Mの施設で調教を行い、最後の1ハロンの時計が公表されて、入札時の価格の判断基準とされる事が多いのだが、さほど速い時計も出せず、人々の注目を集める事もなかったヒシミラクルは阿部雅一郎氏が、誰にも競りかけられることなく650万円で落札した。
Photo Data:(C)KRA
価格は正直なのか。8月にデビューしてから、新馬・未勝利と9連敗。勝星を挙げられたのは初出走から9ヶ月以上も過ぎた5月の終わり頃だった。2着馬に3馬身の差をつけて初勝利を飾ると、翌月のぶっぽうそう特別(500万下)では鼻差の2着。さらに中1週で臨んだ売布特別 (500万下)では後続に5馬身も差をつけてゴールし、素質の片鱗を見せ始めた。
1000万下に上がると、まだ力及ばずに3着、3着と2連敗したが、昇級後3戦目にしてついに古馬達を敗り、1000万下でも勝利した。

獲得賞金額も増え、菊花賞出走も見えてきていたのだが、より出走を確実にする為にトライアルである神戸新聞杯に出走。3着以内に入線すれば確定なのだがヒシミラクルは6着敗退。菊花賞は少し遠のいた。
このあと調教師の佐山優氏は諦めようかとも考えたのだが、夏からずっとこの馬の背中で実力を感じ続けていた角田晃一騎手が、菊花賞への出馬を懇願。高額な追加登録料を支払い、さらに抽選をも突破してヒシミラクルは菊花賞へと出走した。
この菊花賞にはG3級が4頭も揃い、OP級も多く出走してきている。周りの馬達は確実に力をつけてきていた。
ヒシミラクルは500A、足りない。しかし夏場の経験がここで生きてくる。古馬とのレースは成長著しい三歳馬にとって眠っていた能力を引き出す事がよくあるからだ。

ゲートが開き歓声があがる。第63回菊花賞のスタート!直後、1頭が落馬しているのがターフビジョンに映る。場内から一瞬ざわめきが起こり、そして、ひときわ大きな喚声があがった。皐月賞を勝ち、トライアルの神戸新聞杯でシンボリクリスエスの2着に入った、武豊騎手騎乗の1番人気ノーリーズンが、スタート直後に落馬してしまったのだ。再び騎乗してレースに戻ろうとするが叶わない。ノーリーズンは背に誰も乗せずに外ラチ沿いを走ってゆく。
ローエングリンがシンデレラボーイからハナを奪い、ペースを創る。名手岡部幸雄が自在に馬を操り後続を惑わせる。前半1000Mは58.3秒の非常に速いペース。しかし、続く1000Mは66.4秒の大変遅いペースだ。多くの馬達が困惑を隠せない中、ヒシミラクルとこの馬を信じていた角田騎手は惑わされなかった。自己のペースを頑に守り抜き、3角過ぎからスルスルと進出。馬群はローエングリンら先行勢を飲み込み直線へ。直線を向く頃にはヒシミラクルは同じく3角手前から進出して先頭に立ったメガスターダムを捉えんと加速する。メガスターダムが馬体を寄せると闘志に火が付いたのか、さらにスピードアップ。メガスターダムを追い抜き、ジリジリとゴールに向かって歩み寄る。外から一気にファストタテヤマが追い込んできたが、並ばれる前にゴールに飛び込んだ。3連複は426番人気の344,630円。重賞史上最高配当のミラクル馬券となった。
Photo Data:(C)KRA
続く有馬記念は、出走馬14頭中9頭がG1勝馬という主役ばかりが揃ったレースとなった。ヒシミラクルも菊花賞馬として胸を張る5番人気。
やや遅めのペースで流れた前半を後方で我慢していたが、後半ペースがあがると追走が厳しくなった。結果は11着惨敗、休養に入った。

「菊花賞の勝利はまぐれ、展開のアヤ」。
皐月賞は最も仕上がりの早い馬、東京優駿は最も運が良い馬、そして菊花賞は最も強い馬が勝つと言われる事が多いが、10番人気で勝ったヒシミラクルの評価はさほど高くはならなかった。それも菊花賞後の成績を見れば仕方のないところだ。
有馬記念での惨敗に続き、3ヶ月の休養を挟んで出走した阪神大賞典でも12着に大敗。中1週で出走した大阪杯では7着。ファンの期待に応えるどころか、裏切り続ける事になってしまった。
今度こそ汚名返上なるか。京都競馬場にまた帰ってきた。
第127回天皇賞(春)。
ここでヒシミラクルは菊花賞を再現してみせる。
この伝統あるレースに出走してきた今年の18頭は小粒という印象が否めない。G1に勝っているのは、前年の宝塚記念馬ダンツフレームと、菊花賞馬ヒシミラクルの僅か2頭。1番人気は阪神大賞典など3000M以上のレースで好成績を残してきたダイタクバートラム。鞍上は武豊。ヒシミラクルは3連敗で人気を下げて7番人気。
スタートすると角田騎手はパートナーを後方へと導いた。菊花賞と同じ14番手。アルアランと本田騎手の醸す穏やかな流れに乗って進んでゆく。
順調。まるで菊花賞のように3角から進出、一気に先頭に立ちロングスパート。スタートでは出遅れ、直線では大きな不利を受けたダイタクバートラムと、後方で待機して一瞬の切れに賭けたサンライズジェガーが追い込んでくるが、ヒシミラクルの勝負強さと、スタミナには及ばない。さらなる加速を示して、後続に並ばせる事すら許さず天皇賞を勝ち取った。

2003.6.29 第44回 宝塚記念(G1) 阪神 芝 2200M
 
菊花賞1着、天皇賞春1着。もう、一流馬と呼ばれる1頭のはずだ。
この年の宝塚記念のファン投票の1位はシンボリクリスエス。2位以下にヒシミラクル、ダンツフレーム、ファインモーションと続く。やはりファンは、この馬の強さをわかっている。だが、実際の単勝オッズはファン投票と違う結果を示していた。
16.3倍の6番人気。これがファンのヒシミラクルに下した評価だ。長距離G1を2勝したために、距離が800Mも短縮する2200Mの宝塚記念は難しい、長くいい脚を使うような脚質では今回のメンバーでは厳しい、との見解だ。

格理論で考察してみよう。
G1級まで辿り着くことは非常に困難なのだが、この年は、G1級がシンボリクリスエス、アグネスデジタル、ヒシミラクルの3頭も揃った。さらにG2級は7頭。その中には53キロの斤量で出走できる3歳馬も2頭含まれ、予想をするのは非常に難しいレースとなった。
G1Aのシンボリクリスエスは半年のブランク。いかに能力の高い馬でもこの間隔は長い。同じくG1Aのアグネスデジタルは、もう6歳という年齢にも拘わらず、前走の安田記念でオグリキャップのレコードを、0.3秒も上回る好時計で勝利して能力の高さを証明したが、その反動も気に掛かる。また2000Mを超える芝のレースでは1度も3着以内に入った事が無いのもマイナス要因だ。
G1Bのヒシミラクルはどうだろう。
Photo Data:(C)KRA
阪神2200Mは500万下の売布特別で勝っている。新潟でも2200Mを走って3着。この距離は問題なさそうだ。天皇賞春1着なので近走は○。「B」とはいえ、同じG1級ならばこの馬にもチャンスはある。

ゲートが開くとシンボリクリスエスが出遅れたうえに左右にフラフラとバランスが定まらない。同じく出遅れたネオユニヴァースにぶつかりながら内に入っていく。当てられたネオユニヴァースは後方から3番手の競馬に。マイソールサウンド、バランスオブゲームが上がってきて先頭に立つ。タップダンスシチー、今回は6番手から追走の構え。
前半1000Mは12.6、10.8、11.6、12.1、12.3で59.4秒の平均的なペースで流れていたしかし後半レースが大きく動く。中団で機を窺っていた、昨年の年度代表馬シンボリクリスエスが動いたのだ。釣られるように他馬もペースを上げる。
直線に向く頃、内から馬群を割ってシンボリクリスエスが早くも先頭に。タップダンスシチーにも鞭が入り、迫ってくる。外から来た!ヒシミラクルが長い、長いスパートで加速し、内の馬達を次々と追い抜いてくる。ほぼ同じ脚色でネオユニヴァースも来ている。
ここからヒシミラクルは強かった。トップスピードに達すると、その速度を全く衰えさせる事なく先頭に立ち、ゴールに飛び込んだ。限界まで堪えていたツルマルボーイが弾け跳んできたが、それでも追いつきはしなかった。

Photo Data:(C)KRA
土曜日にヒシミラクルの単勝馬券を高額購入した人物は「風采の上がらない50歳前後のサラリーマン」と伝えられた。購入金額は1222万円。安田記念・アグネスデジタルの単勝馬券130万円(9.4倍)を払い戻し、そのまま全額を購入に充てた。
ヒシミラクルが勝利した事により、この馬券の払い戻しは1億9918万6000円という、まさに奇跡的な金額となった。

G1・3勝ヒシミラクル。次はいかなる奇跡を私達に見せてくれるだろうか。



2003年 6月 29日
天気 − 晴れ
馬場 − 良

阪神 11 R
宝塚記念
G1(定量)

芝 右 2200 M   17 頭立

馬    名 性年 斤量 馬体 全格 出走 芝格 出走 休み 連闘 中央 クラ 別定 特別 馬場 頭数 古混 牡混 他条 タイム 人気 オッズ  
1 10 ヒシミラクル 
角田晃一
4 58.0 454
0
G1 B 21 G1 B 21
2.12.0 6 16.3  
2 9 ツルマルボーイ 
横山典弘
5 58.0 458
0
G2 A 23 G2 A 23
2.12.0 8 30.4  
3 16 タップダンスシチー 
佐藤哲三
6 58.0 500
-2
G2 A 29 G2 A 29
2.12.2 4 9.3  
4 6 ネオユニヴァース 
デムーロ
3 53.0 490
+4
G2 A 7 G2 A 7
2.12.3 2 4.4  
5 5 シンボリクリスエス 
デザーモ
4 58.0 524
-4
G1 A 11 G1 A 11
×
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
2.12.3 1 2.1  
6 17 ダイタクバートラム 
武豊
5 58.0 512
+6
G2 A 25 G2 A 24
2.12.4 5 13.8  
7 13 ダンツフレーム 
藤田伸二
5 58.0 508
0
G2 A 21 G2 A 19
×
2.12.5 7 26.0  
8 7 サンライズジェガー 
後藤浩輝
5 58.0 474
+2
G2 B 26 G2 B 20
2.13.1 10 60.4  
9 11 ファストタテヤマ 
安田康彦
4 58.0 448
+2
G3 A 17 G3 A 17
2.13.2 13 116.2  
10 1 サイレントディール 
安藤勝己
3 53.0 514
-6
1600 A 8 1600 A 8
×
×
×
×
×
×
×
×
2.13.2 9 54.4  
11 12 バランスオブゲーム 
武幸四郎
4 58.0 460
-12
G3 A 11 G3 A 11
×
×
×
×
×
×
×
×
2.13.5 11 67.3  
12 14 メジロランバート 
幸英明
8 58.0 452
-10
OP A 24 OP A 23
×
2.13.5 17 266.2  
13 2 アグネスデジタル 
四位洋文
6 58.0 464
-4
G1 A 27 G1 A 10
2.13.7 3 6.8  
14 8 イーグルカフェ 
吉田稔
6 58.0 464
-4
G2 A 35 OP B 23
×
×
×
×
×
×
×
×
2.13.7 12 87.2  
15 3 アサカディフィート 
池添謙一
5 58.0 498
+2
1600 C 23 1600 C 19
2.14.0 16 228.7  
16 4 マイソールサウンド 
本田優
4 58.0 464
-6
G3 B 17 G3 B 17
×
×
×
×
×
×
×
×
2.14.5 14 152.8  
17 15 ストップザワールド 
福永祐一
4 58.0 512
+6
1000 A 15 1000 A 15
×
×
2.16.2 15 222.0  

 

単勝 10 1630 円 6 人気
複勝 10 640 円 8 人気
9 610 円 7 人気
16 270 円 3 人気
枠連 5 - 5 13250 円 25 人気
馬連 9 - 10 14080 円 35 人気
ワイド 9 - 10 3810 円 36 人気
10 - 16 2020 円 23 人気
9 - 16 1830 円 16 人気
馬単 10 - 9 27990 円 70 人気
三連複 9 - 10 - 16 30290 円 79 人気