2003年6月8日
第53回 安田記念
「0」と「1」の狭間。アグネスデジタル、果たしてこの馬の正体は。

2000年秋。
3歳限定のダート重賞・ユニコーンSを、2馬身半も差をつけてゴールしたのは、4番人気の馬だった。ダート戦線で頭角を現し始めた強豪達を負かしたのはアグネスデジタル。芝の重賞ではいつも僅かに届かず、大井のジャパンダートダービーでは14着大敗とアテにしにくい戦績だったのだから4番人気は妥当な評価だろう。
次にアグネスデジタルが出走したのは、この2000年に新設されたジャパンカップダートに向かう「砂の鬼」達が集った武蔵野S。3歳のアグネスデジタルはここでも4番手の評価。断トツの1番人気はダート重賞5勝で地方G1勝ちもあるゴールドティアラ、鞍上は武豊。単勝オッズは1.7倍である。だが、勝利したのはダートOPクラスで好走を繰り返すものの、いまだ重賞勝ちのなかった2番人気のサンフォードシチーだった。ゴールドティアラは得意の末脚を繰り出せず5着に敗れた。2着にアグネスデジタル。古馬相手でも十分戦える事を示した。
Photo:(C)Horses.JP
武蔵野Sで2着したにも拘わらず、陣営が選択したレースは、その1週前のマイルチャンピオンシップだった。
ここで前年のエアジハードでさえも0.1秒及ばなかったレコード「1.32.7」が塗り替えられる事になる。
ヤマカツスズランとダイワカーリアンによって造り出された史上3番目のハイペースというレース展開から、後方の馬にも大きくチャンスが広がった。直線でまず先行勢を捉えたのは、高橋亮騎手の負傷の為に急遽、手綱を執とる事になった安藤勝己騎手のダイタクリーヴァ。中央G1初勝利に向かって疾走する。しかしこの1番人気の馬をゴール直前、僅か1/2馬身退けたのは13番人気のアグネスデジタル。馬場中央から鋭く伸びるこの馬を誰も阻む事ができなかった。場内掲示板の赤い文字「レコード1.32.6」の表示に再び歓声が湧きあがった。
激走の反動からか、この後のアグネスデジタルは凡走を繰り返す。京都金杯3着、京王杯SC9着、安田記念は11着と大敗だ。的場騎手が2月末で引退し、京王杯からは四位騎手が手綱を執っていたが成績は好転しなかった。
安田記念に敗れたあと、2ヶ月半の間隔を空けて戻ってきたのは船橋の日本テレビ杯。ノボトゥルー、スナークレイアース、タマモストロングとかなりの好メンバーが揃ったが、ここで完全復活。2着タマモストロングに3馬身もつけてゴールし、秋の目標のひとつ、盛岡のG1・マイルCh南部杯へと向かった。地方競馬といえども、やはりG1。ウイングアロー、ノボトゥルーという強豪達が揃ったが、アグネスデジタルはその中でも堂々とした競馬。好位からしっかり伸びて2つ目のG1勝ちだ。芝のマイルG1をレコードで勝ったと思えば、今度はダート重賞を連勝。次は何処だ。
Photo:(C)Horses.JP
10月28日の東京競馬場に今度は姿を現した。またもジャパンカップダートではない。芝2000M、天皇賞・秋だ。マル外でありながらも、この伝統あるレースに出走する事を許されたアグネスデジタルは堂々と土俵に上がり、なんと横綱テイエムオペラオーを倒し金星をあげる。
2.1倍、3.4倍、4.5倍、そして4番人気アグネスデジタル20.0倍。このオッズが全てを物語っているだろう。ここまでG1は「2強」の物となっており、もしもこの2強に割って入るとしたらステイゴールドと、この天皇賞でも考えられていた。
天も味方をしたか。そぼ降る雨の中、水をたっぷり含んだ芝を突き抜けて、ゴール寸前G1・7勝馬を差し切った。
増々、この馬が判らなくなってきた。
愛麗數碼。次にこの馬を迎えたのは異国の地、香港。香港国際レースである。この「香港国際レース」はG1のカップ、ヴァーズ、マイル、そしてG2のスプリントによって構成されている。アグネスデジタルが出走するのは香港カップだ。
まずは香港スプリント。ダイタクヤマト、メジロダーリングが挑戦したが、ともに12着、13着と惨敗を喫する。
次はステイゴールド。芝右2400m、香港ヴァーズだ。齢を重ね、ここを最後の戦場に選んだこの馬を日本から多くのファンが応援に駆け付けた。国内では1度もG1に勝てなかったステイゴールドだが、ファンの声援を受けて6ヶ国から集まった馬達よりも頭差速くゴールを駆け抜ける事ができた。
そして、香港マイル。日本からはゼンノエルシドとエイシンプレストンの参戦。この距離では負けられないと、エイシンプレストンは2着に3馬身以上の差を付けてゴールし、続くアグネスデジタルが出走する香港カップに弾みを付けた。
芝右2000M、香港カップ。仏国のG1、サラマンドル賞と英国のG1、デューハーストSを勝っているL・デットーリ騎乗のトボグが1番人気。アグネスデジタルはその次の評価。
天皇賞・秋では後方から伸びて勝ったが、この日は前から5番目の位置取りで進み、直線に入ると早くも先頭に。仕掛けが早いか。観ている誰もがそう感じるような展開だったが、四位騎手は冷静で、そしてアグネスデジタルは強かった。トボグを頭差抑えきり海外のG1を制した。
Photo:(C)Horses.JP
これで4連勝、そしてG1が3連勝だ。G1勝利数は「4」になっている。もう誰もがこの馬を認めている。2ヶ月後のフェブラリーSでは、出走馬16頭中10頭がG1に勝っているという大変豪華な顔ぶれの中で、中央重賞初めて出走馬中1番の支持を集めた。
すんなりゲートを出るとまたも好位の6番手。トゥザヴィクトリー、ノボトゥルーらを前に置き、全く危な気の無い脚どりで直線へ向かう。直線に向いてまず先頭に立ったのはドバイWCで2着したトゥザヴィクトリー。エリザベス女王杯に続く2つめのG1勝利に向けて加速する。残り100Mを過ぎて、アグネスデジタルが外から伸びてきた。4ヶ月ぶりの砂の上でも鈍らない斬れ味。内から伸びてきたノボトゥルー、外から追い込んできたトーシンブリザードを抑えきって勝利した。
国内でG1を5勝。芝・ダートを問わない競走能力。ついに世界最高峰のひとつ、ドバイWCに挑戦だ。日本からドバイに向かったのは、アグネスデジタル、トゥザヴィクトリー、ホットシークレット、ブロードアピールの4頭。いずれも国内で成功を収めた名馬達だ。
レースまでの道のりには困難が待ち受けていた。香港で機体のトラブルから足止めを喰らい、目的地ドバイには22時間以上もかかって到着。さらに天候不順から追い切りの予定も狂わされた。アグネスデジタルは完璧とは言い難い体調のままレースに臨む事となった。
第4レース、ドバイシーマクラシック(芝2400M)に出走したホットシークレットが7着に惨敗。第5レース、ドバイゴールデンシャヒーン(ダート1200M)に出走したブロードアピールも5着に敗れる。
Photo:(C)Horses.JP
日本馬が続けて敗北し「世界の壁」の厚さを感じさせられて迎えた第7レース、ドバイワールドカップ(ダート2000M)にはいよいよアグネスデジタルとトゥザヴィクトリーの登場だ。ドバイワールドカップでは、イスラム教圏の為に賭け事が禁止されており、馬券の発売も無いのだが、各国ブックメーカーによれば1番人気は凱旋門賞勝馬サキー。2番人気は万能アグネスデジタル。地元ストリートクライが3番手に続く。
悪天候で荒れた馬場に足された砂の厚みが応えたのか。回復しきれない輸送の疲れが響いたのか。それとも持つ能力が違ったのか。アグネスデジタルのドバイワールドカップは先頭から14馬身以上も離された6着に終わった。
ドバイでは敗北を味わったが、次なる戦地を求めて、また海を渡る。ドバイ滞在から直接香港に入り、クイーンエリザベス2世C(G1・芝2000M)へと出走することに。ここにも、もう1頭日本馬がエントリーしてきた。日本では共にマル外の為、芝2000Mでの対決が実現しにくい馬エイシンプレストン。ここで完全決着だ。
直線、先行して抜け出したアグネスデジタルにエイシンプレストンが迫る。懸命に堪えたが勢い優るエイシンプレストンに1/2馬身躱されたところがゴールだった。
帰国後、右肩筋肉痛を発症し、戦列から離れる事を余儀無くされてしまったアグネスデジタル。完治して競馬場に戻る事ができたのは1年以上も過ぎてからだった。選んだレースは交流G3、名古屋のかきつばた記念。G3だが、帝王賞、かしわ記念などへのステッップになる事も多く、有力馬の集まるレースだ。この年も例外ではなかった。
フェブラリーSでゴールドアリュールを追い詰めたビワシンセイキ、JBCスプリントを完勝スターリングローズ、5歳時に重賞6連勝ノボジャックがここで輝きを取り戻すか。アグネスデジタルは休み明けのうえ、馬体重はなんと23キロ増の472キロ。過去最高の数字はやはり嫌われて4番人気だ。結果は4着敗退。しかし、この調整と出走は間違っていなかった。陣営はこの馬の正体を掴んでいたのだ。

2003.6.8 第53回 安田記念(G1) 東京 芝 1600M

実に素晴らしい馬達が揃ったこの年の安田記念。G1を勝っているのはビリーヴ、イーグルカフェ、ダンツフレーム、テレグノシス、そしてアグネスデジタルの5頭。短・中距離馬の春期最終決戦といったところか。

格理論で考察してみよう。
G1級はビリーヴとアグネスデジタルの2頭。どちらもG1Bである。近走全てに○が付いているビリーヴだが、この前の1400Mの京王杯スプリングCで直線大きく失速するところを見せており、距離適性には疑問が残る。もう1頭のアグネスデジタルだが、故障で1年も戦列を離れたうえに、G3で4着となれば、やはり過度の期待は禁物といったところか。
G2級は6頭。近走にも問題が無いのはローエングリンとタイキトレジャーだが、タイキトレジャーの7歳という年齢と距離適性の低さはK・デザーモの腕でもカバーしきれるかどうか。1600Mでは連体率100%、前年の宝塚記念では3着に粘り、前走、前前走とG2を連勝しているローエングリンが中心になるかと思われた。

大きくミスキャストが出遅れ、イーグルカフェも遅れた。場内をざわつかせたのはダンツジャッジのスタート直後の落馬。波乱含みの幕開けとなった。やはり飛び出したのは、ここまで逃げて好成績の後藤騎手騎乗ローエングリン。遅れてなるかと同じく先行馬のミデオンビットと吉田豊騎手が並びかけ、そして先頭に立った。すんなりハナを譲り2番手の競馬のローエングリン、その2頭を見ながらビリーヴ、アドマイヤマックスが続く。アグネスデジタルは後方最内で息を潜めている。前半4ハロンは46.0秒と昨年、一昨年とさほど変わらない平均的な流れ。春も過ぎ、緑の木々が輝く中を駆け抜けてゆく17頭。先頭から後方まで12、3馬身程の中に納まっている。
直線、ローエングリンがミデオンビットを捕まえ先頭に立つ。ビリーヴも伸びてきたがマイルは長かったか、1200M程の凄みはない。満を持して追い出してきたのは武豊アドマイヤマックス。粘るローエングリンを抑えてゴールに向かう。
Photo:(C)Horses.JP
さらに、その外から1頭。2枠3番からスタートし、仮柵が外れたAコースの「グリーンベルト」を走り、一瞬開いたゴールへの扉を抉じ開けてアグネスデジタルが抜け出してきた。前日の9R同距離の葉山S。同じく2枠3番からスタートし、直線抜け出して勝ったアパティアを手本に、四位騎手はアグネスデジタルを導く。ローエングリンを抜かし、アドマイヤマックスを首差躱して6つ目のG1勝利のゴールへと辿り着いた。「1.32.1」また叩きだしたレコードタイム。場内はG1級名馬のみせた底力に酔いしれた。

地方統一G1、香港国際G1、そして中央競馬の芝G1を3勝、ダートG1を1勝。
舞台を選ばずに活躍し続けるこの馬の正体を見極めるなど、到底できる事ではなさそうだ。



2003年 6月 8日
天気 − 晴れ
馬場 − 良

東京 11 R
安田記念
G1(定量)

芝 左 1600 M   18 頭立

馬    名 性年 斤量 馬体 全格 出走 芝格 出走 休み 連闘 中央 クラ 別定 特別 馬場 頭数 古混 牡混 他条 タイム 人気 オッズ  
1 3 アグネスデジタル 
四位洋文
6 58.0 468
-4
G1 B 26 G1 B 9
×
-
-
-
-
-
-
-
-
1.32.1 4 9.4  
2 16 アドマイヤマックス 
武豊
4 58.0 478
+16
OP A 6 OP A 6
×
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
1.32.1 6 18.6  
3 8 ローエングリン 
後藤浩輝
4 58.0 474
-4
G2 A 15 G2 A 14
1.32.2 1 3.2  
4 14 イーグルカフェ 
オリヴァ
6 58.0 468
-10
G2 A 34 OP B 22
×
×
×
×
×
×
×
×
1.32.2 10 26.1  
5 7 ダンツフレーム 
藤田伸二
5 58.0 508
+2
G2 A 20 G2 A 18
×
1.32.3 3 5.1  
6 4 ボールドブライアン 
柴田善臣
4 58.0 502
0
OP A 12 OP A 12
×
×
×
×
×
×
×
×
1.32.5 7 19.6  
7 18 テレグノシス 
デムーロ
4 58.0 464
-2
G2 B 13 G2 B 12
1.32.5 2 4.1  
8 11 ミデオンビット 
吉田豊
6 58.0 528
-4
OP C 27 OP C 23
×
×
×
×
×
×
×
×
1.32.6 16 128.7  
9 12 ウインブレイズ 
木幡初広
6 58.0 538
+4
OP B 23 OP B 20
×
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
1.32.7 14 84.4  
10 2 ハレルヤサンデー 
蛯名正義
5 58.0 450
-6
1000 A 24 1000 A 13
1.32.7 12 39.2  
11 17 ミレニアムバイオ 
福永祐一
5 58.0 482
-2
G2 B 14 G2 B 14
×
×
×
×
×
×
×
×
1.32.7 5 17.3  
12 5 ビリーヴ 
安藤勝己
5 56.0 476
-6
G1 B 24 G1 B 22
1.32.8 9 22.4  
13 1 ミスキャスト 
松永幹夫
5 58.0 508
0
1600 A 16 1600 A 16
1.33.0 8 19.9  
14 13 ローズバド 
江田照男
5 56.0 432
+4
OP B 20 OP B 20
×
×
×
×
×
×
×
×
1.33.3 13 75.3  
15 10 オースミコスモ 
常石勝義
4 56.0 426
+8
1600 C 14 1600 C 14
×
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
1.33.3 17 211.1  
16 9 トウショウトリガー 
菊沢隆徳
6 58.0 494
-4
1600 B 49 1000 B 25
×
×
×
×
×
×
×
×
1.33.4 18 219.4  
17 15 タイキトレジャー 
デザーモ
7 58.0 474
+2
G2 A 27 G2 A 22
1.33.9 11 28.9  
- 6 ダンツジャッジ 
和田竜二
4 58.0 496
-4
1600 A 15 1600 A 15
- 15 92.7 中止

 

単勝 3 940 円 4 人気
複勝 3 360 円 4 人気
16 600 円 8 人気
8 170 円 1 人気
枠連 2 - 8 1070 円 4 人気
馬連 3 - 16 10890 円 39 人気
ワイド 3 - 16 3470 円 42 人気
3 - 8 940 円 4 人気
8 - 16 1900 円 23 人気
馬単 3 - 16 22100 円 73 人気
三連複 3 - 8 - 16 18210 円 59 人気