2003年3月30日
第33回 高松宮記念
14056戦3299勝。
この長く続いた道は、どこへ向かうのか。

2001年11月30日。
JRAから、2002年度新規騎手免許試験の第1次試験合格者が発表された。元騎手で現在調教師の南井克巳調教師の長男、南井大志ほか、格理論でも度々目にするようになった柴原央明、鈴木慶太、田邊裕信など10人が見事合格を果たしたのだが、世間の目は残念ながらこの新人達ではなく、別の「合格しなかった」人物へと注がれていた。
Photo Data:(C)THE RACE COURSE
その人物とは1976年から騎手として競走馬に騎乗し、地方競馬を中心に中央競馬でも活躍を続けていた「安藤勝己」騎手だ。
「試験の点数が合格基準に達していない」とJRAは不合格の理由を述べた。
20年以上も競走馬に跨がり続けた騎手に改めて馬術の試験を課し、「国語・英語・数学」の学力と、馬学・競馬の規則などの一般教養を彼に求めたのだ。
安藤騎手は「完治していない骨折の影響で体が動かなかった」とコメントを残してはいるが、ほかの受験した競馬学校生徒が全員合格している事から推測しても、この試験には競馬以外にも、受験テクニックのようなものが必要であったと考えられる。
またタイミングも悪かった。安藤騎手が試験を受ける決心をしたのは9月に落馬事故で入院していた時だ。すでに試験要項を発表したあとの為、JRAも彼にのみ特例を設ける程の時間がなく、結果として不合格にせざるを得なかったのかもしれない。

この試験の結果に対する反響は大きかった。地方での活躍のみならず、中央でも既に140勝以上も挙げている名騎手を不合格にしたのだから当然といえよう。JRAの対応も早く、翌年には特例措置が設けられた。新たに設けられた条件は「JRAの競走で過去5年以内に年間20勝を2回達成すること」この条件を満たしたものは1次試験を免除されるというものだった。

2003年1月1日。JRA騎手免許試験2次試験を間近に控えていた安藤騎手は笠松競馬場で行われた東海ゴールドCに出走した。ゲート内で騎乗馬サダムクリスタルが暴れて転倒し、両足を強く打ちつけて全治1月半の骨折をしたのだが、安静・療養する安藤騎手のまわりでは騎手免許に関する新たな動きが起こっていた。
かねてから地方競馬全国協会は地方所属騎手の「中央・地方のダブル免許」をJRAに求めており、反対され続けていた。JRAも地方競馬に地方間の騎手の往来を認めない「囲い込み」の撤廃を要求していたのだが、ついに双方が歩み寄り、このどちらも認められる素晴らしい結論が出された。
安藤騎手は2月3日・4日と中央競馬騎手免許試験を受験。13日には無事合格が発表され、23日には笠松競馬場で安藤騎手の「合格お祝いセレモニー」が執り行われた。彼を笠松競馬から失う事を残念がる声も多かったが、地元笠松で輝かしい功績を残し、中央へと挑戦する彼を応援する声もまた高い。彼は多くの地元ファンに惜しまれながら新天地へと旅立っていった。
JRAを動かすほど、多くの人々に支持されている安藤騎手の笠松競馬場での活躍にも触れておきたい。
彼が笠松競馬場でデビューしたのは、ロッキード事件で田中角栄首相が逮捕された事で知られている1976年の事だ。75年4月に地方競馬教養センターに入学し、76年の10月に初騎乗。勝利を挙げる事はできなかったが、そのたった3日後・6戦目にして初勝利を収めた。天分に恵まれていたのか。安藤騎手は勝星を積み重ね、2年後には笠松リーディングジョッキーに輝き、その後1995年までの18年間、笠松競馬のリーディングジョッキーの座に君臨し続けた。
その間には、当然、強い馬にも巡り会った。様々な名馬の中でも多くの人々の記憶に残っているのは「オグリキャップ」だろう。笠松でデビューしたオグリキャプは新馬戦から力強い駆りを見せ、5戦3勝2着2回という好成績で、当時の笠松トップジョッキー・安藤騎手に手綱を委ねた。本格化したこの馬と名手の手綱捌きの前に敵はいなかった。出るレースでは全て圧勝。G2だろうがG1だろうが、不良馬場であろうが、その強さを見せつけて勝利した。安藤騎手に替わってからのオグリキャップの成績は7戦全勝。地方競馬12戦10勝2着2回という成績で中央に送り込まれた。中央で安藤騎手はオグリキャップに乗る事はできなかったが、中央のトップジョッキー達の手によってG1・4勝、G2・5勝という素晴らしい成績を収めたのだ。
オグリキャップの才能は勿論だが、安藤騎手の騎乗が後の活躍に大きな影響を及ぼしたであろう事も想像に難くない。
Photo Data:(C)THE RACE COURSE
競馬ファンに更に安藤騎手の名前を知らしめる事になった馬といえばライデンリーダーだろう。
平成7年から地方競馬所属の馬も中央競馬のG1レースに地方所属のまま出走できるようになったのだが、ライデンリーダーはまさにその「地方中央交流元年」に、新馬戦から10連勝という記録を引っさげて安藤騎手と共に中央競馬へと乗り込んできた。競走能力は大変高く、スタートから他の馬とはまるで違うスピードで先頭に立ち、そのまま最後まで押し切ってしまうというレースぶりで勝ち続けてきて、中央の報知杯4歳牝馬特別へと出走した。
迎え撃つ中央の馬達も強く、このレースでは能力の違いだけで押し切るという事はできず、道中ではやはり無理かと思わせるシーンもあったのだが、直線に向くと豪脚一閃、前の馬達を次々と躱し先頭に立ってゴール。その末脚はあまりにも凄まじく、実況していた杉本清アナウンサーがレースの最中に言葉を失ってしまうというエピソードもできた。
このレースの勝ちっぷりから本番の桜花賞では単勝1.7倍という絶大な支持をライデンリーダーと安藤騎手のコンビは集めるものの、残念ながら4着に惜敗。その後もオークス、ローズS、エリザベス女王杯と出走したが残念ながら勝利する事はできなかった。
牝馬3冠全てに出走し、主役級の存在となったライデンリーダー。その背中に跨がっていた「安藤勝己」という騎手の名もさらに全国的に知らしめる事となり、地方競馬所属の騎手が中央でも活躍する大きな足掛かりとなったのだった。

中央競馬で幾度も勝利し、重賞勝ちも収めていた安藤騎手だが中央の「G1」だけは手が届かなかった。挑戦したG1レースの数は23回を数えた。1番人気の馬にも跨がった。惜しくも2着に敗れた事も3度ある。しかしタイトルをその手におさめることはできずにいた。

2003.3.30 中京・芝1200m 高松宮記念(G1)

3月1日に念願の中央デビューを果たし、初戦で2着に好走、その日の2戦目6レースで中央移籍後初勝利をあげて順調なスタートを切ると、翌週にはチューリップ賞(G3)・中京記念(G3)と2日連続重賞制覇。さらにその次の週にはヤマカツリリーでフィリーズレビュー(G2)を勝利。そのうえ、23日の阪神大賞典(G2)でも2着し、3週続けて重賞で連対するという快挙を成し遂げた。
波に乗る安藤騎手。いよいよ迎えるのは、移籍後初めてのG1挑戦となる高松宮記念だ。

岐阜県羽島郡にある安藤騎手の地元・笠松競馬場から40kmと離れていない中京競馬場で開催されるG1レース、高松宮記念。1996年に行われた番組改定で距離体系が整い、このレースは春の短距離戦の主軸のひとつに据えられ、2000年には開催日が3月の末に移動、2001年には国際競走に制定されて、1200Mを得意とする馬達が手に入れたい勲章のひとつになっていた。
Photo Data:(C)THE RACE COURSE
2003年も、この勲章を求めて名スプリンター達が集まった。
その中で1番人気に支持されたのは、前年のこのレースでトロットスター、アドマイヤコジーン、スティンガーらの強豪をスタートから後ろに従えてレースを進め、最後は3馬身半もの着差をつけて完封したショウナンカンプ。さらにスプリンターズSでも粘って3着に好走、香港遠征では惨敗してしまったが国内ではスワンS、阪急杯を逃げ切るという短距離界で敵無しの活躍は1.5倍という単勝オッズを生んだ。
2番手はサニングデール。前年のCBC賞では3歳でありながら1番人気に応えて勝利。阪急杯ではショウナンカンプには届かなかったが、アグネスソニック、ビリーヴらは振り切り2着に粘り込んだのが評価された。
そのあとに続いたのはビリーヴだ。昨秋のスプリンターズSでは圧倒的人気に応えて勝利したが、その後に出走した香港スプリントでは調子を崩したのか馬体重-20キロでの出走。ダッシュもつかず12着に大惨敗。阪急杯では馬体こそ戻ったが久々が応えたのか、それとも遠征の影響か、ここでも9着に惨敗。かなりこの馬に不利な材料が揃って見えたがファンはビリーヴを3番手に支持した。

格理論でも考察してみよう。
トロットスターの連勝、ビリーヴ・ショウナンカンプのG1分け合いから、G1級は1頭もいない。元々この距離で行われるG1が1年に2回しかないのだからG1級まで昇りつめるのも容易な事ではないだろう。G2級はショウナンカンプ、ビリーヴの2頭。ショウナンカンプは帰国後に阪急杯を勝っているのでG2Aだ。G3級は5頭。近走での比較は全て○の馬はCBC賞で好走したサニングデールとカフェボストニアン。格が上がり難い短距離戦線の事を考慮すればなかなかのメンバーが揃ったと言えよう。
今までビリーヴに跨がり続けてきた武豊騎手が、ゴールドアリュールと共に3/29のドバイWCへ向かう予定だった為、ビリーヴの鞍上は安藤騎手に任された。しかしイラク戦争の影響で、ドバイWCの出走が無くなった武豊騎手は、同じくドバイ参戦予定だった米国から参戦のディスタービングザピースへ騎乗する事に。
格・騎手ともに2003年の高松宮記念は混戦模様だ。

ゲートが開き、大きく遅れたのはエアトゥーレとゴールデンロドリゴ。ナムラマイカのスタートが良くスルスルと前へ。なにがなんでもハナを奪いたいショウナンカンプの手綱を藤田騎手がグイグイ押してゆく。どうにか先頭に立つ事はできたが、そのすぐ後ろでもう1頭の米国馬エコーエディが圧力をかける。内で3番手につけた安藤騎手のビリーヴの手応えは素晴らしく、この位置では窮屈そうに映る程だ。
前半3ハロンは前年ショウナンカンプが勝利した時と同タイムの32.9秒のハイペース。同じように今年もこのまま逃げ切る事ができるのか。先頭から最後尾まで15・6馬身ぐらい開いた縦長の馬群が、最後のコーナーを通過する頃には一気に詰まってきた。
ビリーヴが外から先頭に並ぶ。ショウナンカンプも懸命に堪えるがビリーヴの勢いが凄まじい。安藤騎手が大きく鞭を1発振るうと更に加速する。2頭で激しく競っていたがショウナンカンプは前半のプレッシャーが効いていたのか残り100Mで失速。大外から、後方でジッと我慢していた中京巧者サニングデールが跳んできたが、先頭に立ったビリーヴと安藤騎手に並ぶ事はできなかった。

ゴールした安藤騎手は、春秋スプリント連覇を目の当たりにして熱狂する観衆に応える事もなく、周りに気を配りながらしっかりとビリーヴをスローダウン。テイエムサウスポーに跨がっていた笠松競馬所属の兄・安藤光彰騎手に馬上で話しかけられると、ようやく僅かに笑みが漏れた。さらにコースを周り、再び観衆の前に戻る頃には喜びを顔から溢れさせ、鞭を握った拳を2度、3度と天に突き上げて声援に応えた。
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「本当に歓声が凄くて気持ちよかったです。いい枠を引いていたし、ハナを行くつもりは無くても先頭に立ちそうな抜群の行きっぷりでした。直線ではこんなに手応えがよくていいんだろうかと反対にドキドキしました。こんなに早くG1を勝てると思っていなかったので本当に嬉しいです。これからも努力し、一層頑張りますので御声援よろしくお願いします。」
レースの後のインタビューに笑顔で答えた安藤勝己騎手。43歳の「新人」の挑戦はまだ始まったばかりだ。



2003年 3月 30日
天気 − 晴れ
馬場 − 良

中京 11 R
高松宮記念
G1(定量)

芝 左 1200 M   18 頭立

馬    名 性年 斤量 馬体 全格 出走 芝格 出走 休み 連闘 中央 クラ 別定 特別 馬場 頭数 古混 牡混 他条 タイム 人気 オッズ  
1 1 ビリーヴ 
安藤勝己
5 55.0 472
-2
G2 B 22 G2 B 20
×
×
×
×
×
×
×
×
1.08.1 3 10.1  
2 18 サニングデール 
福永祐一
4 57.0 446
-4
G3 A 12 G3 A 12
1.08.3 2 8.1  
3 15 リキアイタイカン 
武幸四郎
5 57.0 492
-8
G3 C 20 G3 C 18
×
×
×
×
×
×
×
×
1.08.5 10 33.9  
4 4 テイエムサンデー 
秋山真一
7 57.0 498
-2
OP A 31 OP A 15
1.08.5 7 21.6  
5 7 ゴールデンロドリゴ 
佐藤哲三
6 57.0 496
-2
1600 C 37 1600 C 23
×
×
×
×
×
×
×
×
1.08.5 11 59.2  
6 17 アグネスソニック 
デムーロ
4 57.0 486
+4
G3 A 11 G3 A 11
×
×
1.08.6 5 19.5  
7 2 ショウナンカンプ 
藤田伸二
5 57.0 484
-4
G2 A 18 G2 A 7
×
1.08.6 1 1.5  
8 13 ネイティヴハート 
石崎隆之
5 57.0 490
-12
G3 A 21 G3 A 15
×
×
1.08.6 6 21.5  
9 10 キーゴールド 
内田浩一
8 57.0 516
+8
1600 B 36 1600 B 12
×
×
×
×
×
×
×
×
1.08.6 18 322.3  
10 16 シベリアンメドウ 
川島信二
4 57.0 508
-6
1000 A 18 1600 A 8
×
×
1.08.7 15 237.0  
11 8 ジェミードレス 
菊沢隆徳
6 55.0 450
-2
OP B 26 OP B 26
×
×
×
×
×
×
×
×
1.08.8 13 139.2  
12 6 テイエムサウスポー 
安藤光彰
5 57.0 524
0
1600 C 14 1600 C 13
×
×
×
1.08.8 16 252.4  
13 9 ディスタービングザ 
武豊
5 57.0 522
0
B 18 B 0
×
-
-
-
-
-
-
-
-
1.08.9 4 11.2  
14 12 カフェボストニアン 
松永幹夫
4 57.0 528
+2
OP A 9 OP A 9
1.09.0 8 25.1  
15 3 マンデームスメ 
中舘英二
4 55.0 480
0
1000 C 10 1000 C 9
×
×
×
×
×
×
×
×
1.09.0 14 142.5  
16 5 エアトゥーレ 
四位洋文
6 55.0 470
+4
G3 C 22 G3 C 20
×
×
×
×
×
×
×
×
1.09.2 12 91.5  
17 11 エコーエディ 
ヴァルデ
6 57.0 502
0
B 22 B 0
×
-
-
-
-
-
-
-
-
1.09.4 9 31.0  
18 14 ナムラマイカ 
村本善之
6 55.0 456
+8
1600 B 36 1600 B 36
×
1.09.7 17 284.5  

 

単勝 1 1010 円 3 人気
複勝 1 370 円 4 人気
18 210 円 2 人気
15 590 円 9 人気
枠連 1 - 8 320 円 1 人気
馬連 1 - 18 3520 円 12 人気
ワイド 1 - 18 1220 円 11 人気
1 - 15 4070 円 44 人気
15 - 18 1960 円 20 人気
馬単 1 - 18 7340 円 20 人気
三連複 1 - 15 - 18 31580 円 80 人気